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“人権”をきっかけにした対話を通じて、
日本郵船グループの
バリューチェーンにおける、
人々の豊かな暮らしを実現する

2024.03.28
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受け継がれる社会的使命

日本郵船グループがミッションとして掲げる“Bringing value to life.”の原点は、三菱グループを創設した岩崎彌太郎の言葉にある。

「我ら一艘の船を浮かべれば、世に一層の便をもたらし、その利は全人民の頭上に落つる理なり。」
日本郵船(株)による意訳をおこなっています

広く社会を見渡し、自社の利益だけにとらわれることなく人々の豊かな暮らしの実現に貢献するという使命感は、今も日本郵船グループに受け継がれている。
その実現に向けて、日本郵船グループが事業活動により影響を与える、すべての人々の人権が尊重されなければならないということを理解し、その役割を果たすための動きを加速させている。

ESGコミュニケーションチーム長の鈴木は、「これまでも事業部ごとに労働環境を改善する取り組みが行われてきましたが、全社的に取り組むべく、2022年4月より人権プロジェクトを開始しました」と説明する。
「人権と聞くと難しい話題だと捉える方も多いですが、私たちはすべてのライツホルダー※1と対等な立場で対話をするためのきっかけの一つだと考えています」と、同チームメンバーの堀江も続ける。

日本郵船(株)は国内企業の中でも人権尊重を念頭に他社に先駆けて行動してきた。例えば国連グローバル・コンパクトへは、賛同を表明する企業がまだ少ない中2006年に賛同し支持を表明。2012年からは、経済人コー円卓会議日本委員会(以下、CRT日本委員会)の「ステークホルダー・エンゲージメントプログラム※2」にも参加してきた。そして同法人は現在、日本郵船の人権プロジェクトでコンサルティングを担っている。

直接対話を基に、PDCAのマネジメントサイクルを回す

堀江は、「私たちは決して監査をしに行くわけではなく、ライツホルダーと対等な立場で、なるべく直接対話をすることを心がけています。従業員が存在意義を感じ、モチベーションを高めて働くことで活力が生まれ、結果として会社の組織力も強いものとなる。こうした考えの下、私たちは一連のプロセスを通じて、抽出した課題を一緒に解決するために歩むことで、日本郵船グループとしての企業価値を高め、会社が掲げるミッションの実現に、一人ひとりが携われるような職場にしたいという思いで日々業務にあたっています」と語る。

この思いを実現していくため、人権プロジェクトでは2011年に国連が策定した「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく対応に取り組む。そして、その適切な対応をすすめるための伴走者を務めているのがCRT日本委員会だ。

日本郵船は2022年にVerisk Maplecroft社※3の人権リスク評価を実施。社内関連部署の管理職を対象とした人権デュー・ディリジェンスのワークショップを行い、グループが関わるバリューチェーンにおける合計5つの人権テーマを特定した。2022年から2023年にかけて、そのうち3つのテーマのライツホルダーである、自動車物流事業で働く作業員、船舶解撤ヤードで働く解撤作業員、外航海運業に従事する船員に対して、それぞれインド、バングラデシュ、フィリピンに足を運んでインタビューを実施し、人権課題を特定している。今後もこれら3つのテーマに基づく課題に対してフォローアップに取り組むと同時に、残り2つの人権テーマについても課題の実態を把握するため、インタビューを実施していく。

現地でのヒアリングは、CRT日本委員会が第三者機関として、現地のローカルパートナーとともに行う。

CRT日本委員会の岡田氏は、「現地の言葉でインタビューする必要があるので、ローカルパートナー探しは注意深く行っています。ビジネスと人権を理解し、専門知識を持って国際基準と国内法の両面からライツホルダーが置かれた状況を評価できること以上に、ライツホルダーたちが安心して悩みを打ち明けられる、父、母、兄弟のような人柄をお持ちかどうかが大事です。つまり、立場が脆弱な人々からの信頼を確保し、本音を引き出せるパートナーを見つけることがこのインタビューでは非常に重要になります」と説明する。

本プロジェクトにおいては、関係する日本郵船グループ会社・取引先に対してCRT日本委員会からヒアリング結果の報告も行うことがある。専門家の視点から、ライツホルダーの意見を踏まえた改善のポイントや課題がありのまま報告される。

「長い歴史を持つ日本郵船グループのサプライヤーには、その国を代表し、国民の暮らしに直接影響を与える規模で事業を展開している企業が数多くあります。その国の人々をどのように豊かにしていくか、事業を通して国家を支えるような取り組みをされているケースもあり、私たちが目指す人権に対する考え方に理解を示していただけます。ヒアリングにも協力的で、報告する課題への理解も非常に早いと感じます。日本だけでなく、世界でも“Bringing value to life.”に通じる理念を持った方々とつながっているからこそ、このスピード感で取り組みを進められるのだと感じています」と、岡田氏はプロジェクトを共にする実感を語る。

時には、CRT日本委員会から報告や改善案を受け取った日本郵船グループ会社・取引先が、首をかしげることもある。だがそれは、ライツホルダーである労働者と会社の間にあるギャップが見えた証拠でもある。会社側の取り組みが、労働者と会社双方の納得するかたちでうまく伝わっていないとわかれば、新しい改善活動が生まれるきっかけとなる。これまで気付かなかった課題や懸念点を一つずつ解決に結びつけるといった一連のプロセスから得られる教訓は大きい。その教訓を日本郵船グループや取引先にも共有すれば、取り組み全体の底上げを図ることができる。だからこそ、一人ひとりの声を丁寧に聴き、顕在化した人権課題の真意を掘り下げて、確実にPDCAのマネジメントサイクル(以下、PDCA)を回す。時間も労力も惜しみなくかけるからこそ、次の課題を見つけ、課題解決に向けた着実な一歩を重ねていくことができる。

堀江は、「一気にすべての拠点へ人を派遣するのではなく、一つひとつの拠点で丁寧に時間をかけてやっていくことを大切にしています。PDCAを回して発見した課題に対し、対応策を考えて実行し、その結果を見て、またPDCAを回していく。小さくても構わないので、そのPDCAを一つひとつ着実に回していくこと。そして成功事例を積み重ね、当社グループとして人権課題に対応するノウハウを蓄積し、ゆくゆくは各事業部門で自律的に回す仕組みを作り上げていくことが、この人権プロジェクトの肝であると考えています」と、このプロジェクトにかける熱意と覚悟を語る。

人権の本質とは何か

「人権尊重とは、『肩を叩いて “Are you happy?”と尋ねられた時に、“Yes, I’m happy.”と答えられるかどうかだ』と、国連『人権と多国籍企業及びその他の企業の問題』に関するワーキンググループの初期メンバーを務められた方がおっしゃっていました。人々がスマイルでいられるか、実はそれが人権の本質なのだなと思います」と岡田氏は言う。

鈴木もまた、その言葉に気付きを得た一人だ。2023年11月、フィリピンの船員へ人権プロジェクトを説明する準備の際、これまで自身が働いてきた環境の中で特段人権を意識したことがないと気付いた。異なる文化や社会の中で働く船員にも納得してもらうためにはどのように説明するべきか。国連の世界人権宣言や、過去の人権活動にまつわる偉人たちの言葉を参照しても、それらを自分の言葉として伝えることになかなか腹落ちしなかった。

「悩んだ末、岡田さんに相談をして、辿り着いたのがスマイルという言葉でした。日々の生活の中で、笑って仕事ができることや家族と触れ合えることが人権が尊重されている状態なのだと仮定すれば、その状態を目指して悩みや課題をともに解決していくことが、私たちの事業と関わりのあるライツホルダーの方々の笑顔につながるのだと考えました」と鈴木は振り返る。

フィリピンで行われた人権プロジェクトの説明に同席していた岡田氏は、「プレゼンテーションの時の船員の皆さんの反応を見ていると、スマイルという言葉に深くうなずいていて、すごく響いていると感じました。日本郵船グループの事業に関わる方々の働く環境に笑顔が生まれ、将来は自分たちの子供にも日本郵船グループの一員として働き続けてほしいと思ってもらえることが、このプロジェクトのゴールになると思います」と語る。

相互理解をしながら、掛け算で進む

鈴木は人権プロジェクトについて、「社内でも、今はまだごく限られた人たちの活動にとどまっています。それをどのように、各事業部門やグループ会社の社員にも自分ごととして理解してもらうか。立場によって意見が異なることもわかっています。世の中の動きと私たちが推進するプロジェクトを広めることで、人権に対する意識や考え方が変わっていくことを望んでいます」と話す。

岡田氏も次の課題として、人権に対するマインドセットを浸透させることを掲げる。
「社外への情報開示に難しさを感じることがあります。国や地域によっては、人権課題の特定と対応において、『今後、自分たちができること』ではなく『現在、自分たちができていないこと』に意識が集中してしまうことで、これをさらけ出すのは恥だ、という考えや、『現在、自分たちができていないこと』を訴訟の道具に使われるかもしれないという懸念につながるかもしれません。しかし、ビジネスと人権とはそうした考え方を超えて、まず課題点を見つけ、それにどのように取り組むのかという姿勢や道筋を示すことで、これが評価され、多くのステークホルダーから正当性の担保を得ることができます。『人権課題をあぶりだし、グループ全体あるいはサプライヤーとともに対応を進め、日本郵船グループのミッションを果たしていく』という取り組みを積極的に情報開示し、これに対してグローバルにおけるステークホルダーからの適正な外部評価が進めば、社内に限定されず、社内外での人権課題の特定と対応に対するマインドセットが変わり、ひいては、日本郵船が社会全体に及ぼすプラスの影響、インパクトも広がることになると思います。これこそが、日本郵船グループのミッションである“Bringing value to life.”の原点にも紐づけられるのではないでしょうか」と将来像を語る。

日本郵船とCRT日本委員会との信頼関係は、「足し算ではなく掛け算」の関係だ。

堀江は、「岡田さんをはじめ、CRT日本委員会の皆さんと高い頻度で対話を重ね、日々人権に対する理解を深めています。自社のビジネスをよく知る日本郵船と、人権をよく知り、“Critical friends(批判的な友人)”であるCRT日本委員会が互いの領域を学び合いながらタッグを組んでビジネスと人権に向き合っていることを実感していますし、この体制で業務を進められることがモチベーションにつながっています」と言う。

例えば、日本郵船の外航海運業ではさまざまな国へ運航し、多くの場合は船籍と異なる国籍の船員が乗船する。では彼らの就労国はどこになるのか、外国籍の労働者や移民労働者と捉えられるのか。一般的に懸念される人権課題を、彼らも同様に懸念されるべきなのだろうか―。

「事業の特性を理解して初めて、どのような人権課題が懸念されるかを見定めていけるのです。その作業を一緒にさせていただけているのは、難しさもありながらすごくありがたい。膝を突き合わせて一緒に考えて教えてくださることにより、プロジェクトの意味が深まっていくのを実感します」と岡田氏が続けた。

ビジネスの領域では日本郵船、人権の領域ではCRT日本委員会とそれぞれがプロフェッショナルとしての自覚を持ち、互いの領域に対する理解を積極的に深めながらプロジェクトと向き合う。

幸せのかたちは人によって異なり、笑顔になれる環境も人それぞれだ。当然、抱える課題によっては解決に時間がかかるものもある。「少しずつでも、できることから取り組んでいく。人権というテーマにあまり臆病にならず、手を取り合えるパートナーを増やしていきたい」と鈴木は語る。

プロジェクトチームは決して妥協することなく、腰を据えてプロジェクトを推進し、日本郵船グループに関わるすべてのステークホルダー、それぞれの”Happy”に寄り添う覚悟を決めている。

インタビュー 2024年1月11日

  • ※1 ライツホルダー
    権利(人権)の保有者という意味で、企業活動から影響を受ける可能性のあるグループやステークホルダーを指す
  • ※2 ステークホルダー・エンゲージメントプログラム
    企業、NGO/NPO、学識有識者等が国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」で求められている人権デュー・ディリジェンスに向けた議論を行うプログラム
  • ※3 Verisk Maplecroft社
    グローバルリスクの分析・リサーチ・戦略予測を行うリーディングカンパニー
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