宇宙事業への参画でイノベーションを起こす日本郵船のチャレンジ
公開日:2025年01月22日
更新日:2025年01月16日
当社は宇宙事業に本格的に取り組んでいます。2023年3月に発表した中期経営計画では、新規事業の一つに「宇宙関連事業」が記載され、また2023年4月には先端事業・宇宙事業開発チームが発足しました。本業である海運業で培った技術や知見を活用し、(1)洋上でのロケットの打ち上げ、(2)打ち上げたロケット1段目の洋上回収、(3)衛星データの利活用、の3つの領域で事業を進めています。
(1)洋上でのロケットの打ち上げ
ロケットの打ち上げ施設は国内では種子島など陸上にありますが、ロケットを船舶に載せて発射するポイントまで航行し、海上で船からロケットを打ち上げるというアイデアの実現に向けて動いています。昨今では小型衛星を取り扱うロケットのベンチャー企業も複数存在する中、ロケットを打ち上げて宇宙に届けるにはコストを含め多くの制約があり打ち上げたいタイミングや方向を調整できない状況があります。そのような中、船舶からの打ち上げが可能になれば、地球が自転する力を最大に利用できる赤道に近づくこともでき、また国土から遠ざかることで安全性を担保できるメリットもあります。安全制約など様々な制約を取り払って、好きな時に好きな方向にロケットを打ち上げられることが、洋上から打ち上げる際の強みになります。
今後、既存の船を再利用するか、打ち上げ用の専用船を新たに建造する計画で進めており、数年以内に小型ロケットの打ち上げを目指しています。
(2)打ち上げたロケット1段目の洋上回収
ロケットを発射する際、推進剤(燃料と酸化剤)を燃やす必要がありますが、必要な推進剤を使い切ったロケットの下段部分は切り離され宇宙に向かわず落下します。切り離し後捨ててしまう方式ではロケット1回の打ち上げコストが高くなってしまうため、繰り返し使用が可能な1段式ロケットも研究・試作されています。この再利用可能なロケット1段目が落ちてくる位置をあらかじめ計算し、その地点に船舶を向かわせ回収するシステムの構築を目指しています。これは三菱重工業(MHI)から、再使用型ロケットを洋上で回収するための共同研究に挑戦しようと提案いただき、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラム」の研究提案に採択されたものです。JAXAとMHIは宇宙のスペシャリストですが、当社は船舶の運航や海運関連の技術開発という分野に知見があり、さらに海上社員の海技力を活かしていきます。例えば、潮流の影響も加味した上で船舶を特定の位置で保持できるように、船舶の推進装置を自動制御する高度なDPS(ダイナミック・ポジショニング・システム)を活用する、といったことが考えられます。今後は洋上回収の実現に向けて必要となる基盤技術開発を推進していく必要があります。2024年12月20日にJAXAの宇宙戦略基金事業の1つとして本件が採択されたことにより、今後本格的に研究開発を進めていきます。
(3)衛星データの利活用
当社は世界の海で800隻以上の船舶を運航しているため、海上での衛星データの利活用の可能性を探っています。その取り組みの一環として、2023年4月から9月まで、大手企業が主催する宇宙産業の事業開発に特化した、アクセラレーションプログラムに参加しました。「衛星データなどを活用した運航船舶の最適航路設計と安全運航航路設計ソリューション」と「衛星データなどを活用した、船舶運航時の排ガス量を精緻に計測するソリューション」という2つの課題を提案し、個別で衛星データ利活用に関しての協議を進めています。取組みが進めば、船舶運航の効率化や排ガス量の精緻な計測が可能になると考えています。
宇宙事業のはじまり
宇宙事業が始まるきっかけとなったのは、社内の新規事業創出プログラム「NYKデジタルアカデミー」でした。「NYKデジタルアカデミー」とは、真の顧客ニーズを洞察し、主体性をもって革新・改革に取り組むビジネスリーダーを育成するため、2019年9月に創設された当社の研修プログラムです。ここで当時海外赴任していた3人が同じチームになり、多様かつ活発な議論が交わされたことが今に続いています。3人のストーリーは別記事をご覧ください。
本プロジェクトはまだまだ初期のフェーズであり、収益化を含めたビジネスモデルの確立や、法規制に対する整備、技術的なハードルをクリアすること、制度設計など、やるべきことはたくさんあります。当社が有する技術・知見で一つずつ課題を解決することで、ロケットの回収・打ち上げができるプラットフォームを提供し、社会課題を解決することを目指します。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです