日本郵船の舞台裏私たちの働き方

〈海技者の陸上勤務〉新事業の開発に海技者としてのスキルを生かす!

仕事をする新藤遼太船長

海運・造船など海事産業の高付加価値化を目指し、当社は船舶事業グループを2023年に新設しました。新藤遼太船長は同グループ員で唯一の海技者(船員としての知識・経 験を生かして海事関連業務に従事する者です。彼のこれまでのキャリアや日々の仕事について聞きました。

自社養成制度を利用して海技士のライセンスを取得

私の場合、一般大学で学んで、就職活動中に初めて海運の仕事を知って、日本郵船に入社しました。海のない県の出身で、“船乗り”という言葉がなんだか心に響いたんですね。当社の海技者は海と陸の両方で幅広い業務を積み重ねられますし、世界を股にかけて働くフィールドも広い。飽きっぽい自分でもやりがいを感じ続けながら仕事ができると思いました。
海運会社で採用される海技者は、商船大学卒や船員教育を行う高等専門学校卒が主流ですが、当社では一般大学卒業者も外航船の船員となるための国家資格である海技免状の取得を目指せる自社養成制度をいち早く設けています。私は制度が始まって2期目の2007年に10名ほどの養成枠で入社しました。
当時、最初の半年間は「臨港店研修」。主要港にある代理店事務所で船舶の入出港に関わる手続きなど現場の実務を経験しました。その後は神戸の海技大学校での半年間の座学を経て、航海訓練所で3カ月は国内、3カ月は帆船でハワイへの乗船研修です。楽しかったですねぇ(笑)。海技免状取得の要件の1つとして1年間の乗船経験が必要なので、もう半年は社船のLNG船でインドネシアと日本を往復しました。
国家試験に臨み、三級海技士免状を取得したのは2009年7月でした。試験は航法、航海計器の原理、気象、海事法規などに関する口述です。商船大学や商船高専門学校では4、5年をかけて学ぶ内容を、入社後2年で習得するのは大変と思われそうですが、すでに海の仕事にすっかり魅せられていた私にとってはまったく苦にはなりませんでした。

技術本部 船舶事業グループ 調査役 船長新藤 遼太

技術本部 船舶事業グループ 調査役 船長
新藤 遼太

海と陸との経験を重ねて、新部署の立ち上げメンバーに

海技者としてのキャリアスタートは、日本とオーストラリアを結ぶばら積み船です。その他、LNG船、コンテナ船などに乗務して世界の海を渡り、2013年暮れから2017年3月は初の陸上業務。タンカーの検船対策などに取り組みました。そしてまたLNG船で海へ。オーストラリア、オマーンなどへと数カ月から半年ほどの航海を重ね、その間に社内の登用試験を経て“船長”の辞令も得ました。
2度目の陸上業務では海務グループに着任し、新部署を立ち上げるための業務を行いました。
かつては日本が世界シェアトップだった造船業も、現在は中国が6割を占めています。けれども、日本には長年培ってきた技術も、ITをはじめとした先進技術もあります。業種を越えた連携で新たなソリューションを提供し、運航、造船、舶用機器など日本の海事産業を活気づけようということから始まったプロジェクトでした。


新藤船長冬の室蘭の船上で

二等航海士のとき、冬の室蘭から出港したVLCC(Very Large Crude Carrier=大型タンカー)の船上で。

国内外に出張し、年間100社近い企業と話す

社内の合意形成やさまざまな準備を進め、船舶事業グループが立ち上がったのは2023年4月。造船所などとの折衝に長けた技術者、システムに強い営業職、船の知識はないけれど別の業界で事業開発に取り組んでいた人、グループ会社で商品拡販に携わっていた人など、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まりました。受付や事務を担う1人を含めた6人体制です。
乗船経験を持つのは海技者である私だけです。海でも陸でも、現場を知っている重要な役割と感じます。出自も多様なメンバー間では使う用語も違うことがありますから、互いに「それ、どういう意味?」と伝え合い、知識を深めることができています。
船舶事業グループ設立時は「日本の海事産業を元気に!」が目的でしたが、海運の仕事は国内だけで収まるものではありません。造船や舶用機器製造、荷主、船舶管理会社などは海外各所にありますので、今は私たちが関連する世界全般の海事産業を元気にしようと動いています。
これまでにない枠組みでソリューションを生み出そうとする部署ですから、パートナーとなる企業もさまざまです。お会いして話す企業は年間80~100社ほどに及びます。
例えば最近私が担当している業務の一つは、船舶自動運航システムの事業開発。人員不足に悩む国内航路で人間が担う作業を減らせるよう、グループ会社や関連企業と共に進めています。また船舶エンジンのリモートモニタリングにも注力しています。不具合が起きると船内のアラームが鳴り、機関士が都度対応するのが一般的ですが、エンジンに設置した各種センサーデータを陸上でモニタリングし、異常を早期に検知して船上で対策できる当社の仕組みを社外にも広げようとしています。
部署内ではメンバー個々に新事業を開発していく体制。当社が持つ技術を活かし、今現在の問題に対して足りない部分があれば新たに取り組みます。船主と運航会社の間に立つことが多い船舶管理会社とのよりスムーズな連携システム、技術系グループ会社のサービスや商品を連携させたソリューションの提供など、メンバーごとに多様なプロジェクトに挑んでいます。
出張は多いです。伝統的に造船所や船主などが多く海事産業が盛んな愛媛県には数カ月ごとに行きますし、船舶管理会社が集まるシンガポールやギリシャ、ヨーロッパなどの各都市にも出かけています。先月はヨーロッパを回り、今月はフィリピンに行きました。当社の海技者として海外での会議に出ることもあります。国内外とも出張先では1日2、3件のアポイントメントは入れます。午前中に1件、午後に1、2件という感じです。
社内業務の日は、子どもを保育園に送ってから9時30分頃に出社。私もですが、当社ではフレックスタイムで勤務する社員が多くいます。午前中に社内の会議や打ち合わせを済ませたら、昼食は社員食堂で船舶事業グループのメンバーと他愛のない雑談を楽しみながら食べるのが日常です。午後は海事関連企業などの方々とお会いし、夕方にその日の内容をまとめて18時頃に退社します。

フィリピンの商船大学にて

2024年1月、当社が現地パートナーTransnational Diversified Groupと共同運営するフィリピンの商船大学NYK-TDG MARITIME ACADEMY(NTMA)にて。隣接するNYK-Fil Maritime E-Training(NETI)で当社運航船に配乗される船員向けに実施している研修の外販についての現状と今後についてNTMA/NETIの関係者と意見交換するとともに、船舶運航関連データを自動収集するSIMS搭載船の機関プラントの状態を24時間集中監視するNETI内のセンターの様子を見るために出張した。

海で培った経験の全てが今の仕事に活きている

当社の海技者は、海と陸とで役割がまったく変わります。船上では安全に荷物を運ぶことが最重要。そのため、決められたことをきちんとやる姿勢が必須です。一方、陸上では、自ら仮説を立て、動かし、修正して……とPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション=計画・実行・評価・改善)を回し、社内外へ提案していきます。海の上とは違うアプローチが求められるんです。特に今の部署は新しい事業開発にチャレンジできるので、やりがいがありますね。
荷主や造船業などの人は“船乗り”ではありません。こうして陸上の仕事をしている今も、船上ではどんなことが問題になるか、経験があるからこそ伝えられます。他業種での新技術も、それは船でならこんな風に使えるかもと想像もできます。これまで乗船して積み重ねた知見や体力、チームを信頼する力、陸上業務で培った関係企業への理解や折衝力、その全てを活かせています。
目下の目標はやはり、自動運航技術を通した社会課題解決への貢献です。中長期的な話としては、世界の海運の状況変化を敏感にキャッチして提案をしていける柔軟な組織として、海上輸送における新しいビジネスモデルを生み出していきたいと考えています。

陸の上から海の仕事の将来を見据える新藤船長

やり甲斐の大きい新事業開発。陸の上から海の仕事の将来を見据える。

【新藤遼太のある数日の働き方】

月曜日
9:00  東京のオフィスで、自身が管掌を担当するフィリピンの会社(マルコペイ)とオンライン会議。
     事業の進捗等を確認
10:00  船舶事業グループの今後について、グループ内で議論
12:00  昼食
13:00  社内研修に参加
14:00  翌日の長距離移動のため早めに帰宅

火曜日  移動(東京→ロンドン)
水曜日  ロンドンにある船舶管理会社複数社と打ち合わせ
     船舶事業グループの考えを説明しつつ議論を交わす
     夜は船舶管理会社関係者と会食

木曜日  移動(ロンドン→ハンブルグ)