海上での業務経験を活かす!広報グループで働く海上社員インタビュー
公開日:2025年01月22日
更新日:2025年01月22日
日本郵船株式会社の広報グループ報道チームには海上社員が1名所属しています。海上社員が広報グループに存在する意義について、また業務内容や海技者としてのキャリアについて、一等航海士である赤池 優に話を聞きました。
〜広報グループでの海技者の役割とは〜
私は、2016年に海上社員として入社し、LNG運搬船、原油タンカー、在来貨物船など、さまざまな種類の貨物船に乗りました。その後、初の陸上勤務の辞令があり、2022年に広報グループ配属となりました。広報グループの中の報道チームというところで、主に対外広報を担当しています。乗船時の経験を活かし、メディアの記者の方々や、テレビ関係者の方々とやり取りし、当社のPRや、特に船舶の技術に関するプレスリリースを作成しています。
私が仕事をする上で感じているのは、社会と社内を繋げる橋渡し役としての“海技者の重要性”です(※1)。報道チームの主な業務は、「社会に情報を発信したい社内部門」と「価値ある情報を入手したい社外メディア」間をスムーズに接続することです。広報グループには私しか海技者がいないので、技術関連や海技関連の情報のほとんどは私に集まってくることになり、必然的に多くの社内部署の方と接点ができます。私のこれまでの経験上、「社員が思う価値ある情報」と「メディアが思う価値ある情報」は乖離していることがほとんどです。どちらの知識も持ち合わせている広報海技者なら、その溝を上手に埋めることができますし、それが私の役割だと思っています。
※1 海技者:「海技力(船で身に付ける知識・技術)を有する人材(船員としても陸上技術者としても活躍)
~海上の経験を広報で~「船全般の知識」と「決断する力」
まずはなんといっても、「船全般の知識を持っている」ということです。私は航海士ですが、乗船中には航海士として必要な技術や知識だけでなく、機関や法規なども学ぶようにしていました。それらの知識も含め、今の仕事に活きています。例えば、船上でトラブルが発生した際、概要を聞けば状況がパッと想像でき、今後の展開も想像できます。初期対応が重要な海難事故のメディア対応において、海技の知識は非常に重要であると感じています。
もう1つは、「決断する力」です。三等航海士(※2)として初めて「避航操船(他の船舶をよけること)」をした際、リスクが最も小さいと考える避航動作を行うために大きく舵を取ることを選択した際の考え方が、広報の業務でも活きています。
航海士には決められた時間での当直業務(※3)があり、基本的には当直中は1人で操船を行います。もちろん船長への報告・相談はしますが、当直航海士として限られた選択肢の中からリスクとメリットを天秤にかけて、最善の選択を自らの責任で行う必要があります。これは、海技者として入社してわずか数年以内という比較的早い段階で行わなければならないことです。
広報グループではメディア関係者の方々からさまざまな内容の問い合わせを受けますので、その場の対応を求められることが多くあります。確認をして改めて回答する場合もありますが、時には当社の代表として、責任を持って自身の持つ知識を用いて説明をするという決断をすることで記者からの信頼を得られます。「決断という一歩を踏み出す小さな勇気」は、私は船で培ったものだと感じています。
※1 三等航海士:航海士は、船長と、一等から三等までの4つの階級があります
※2 当直業務:気象や海象をもとに、航路を決定し、他船と衝突しないよう24時間体制で見張りを行う業務です
~広報グループでの経験を活かした、目標とする社会人像~
広報グループ以上に、社内外の情報が集まるところはありません。当社が何を大切にしていて、どのように意思決定をしているのかを間近に見られるので、この陸上勤務での経験は確実に私の視野を広げてくれました。海上勤務では見ることができなかった、会社の全体像を把握する視点を持つことができました。
また、広報グループで得た「広いネットワーク」と「コミュニケーションのコツ」も役立つと思います。一緒に仕事をしたことがある人が社内にたくさんいます。今後、また別の部署で陸上勤務となることもあるでしょう。その時に、このネットワークは必ず自分を支えてくれると思っています。組織間の橋渡しの中で最も難しいのは、双方の希望にずれが生じるケースです。このような場合、それぞれが大切にしていること・譲れないことがすれ違っているケースがほとんどで、そのままでは何度議論を重ねても解消しません。広報は中立の立場でお互いの譲れないことに広報の観点を交えて折り合いをつけることができます。こういった人と人とのコミュニケーションの極意は、これからのキャリアで、船内や他の部署、どこでも役に立つものだと思っています。
自分で責任を持って意見しポジションを取ることで、自らが思い描くキャリアの実現に繋げられるよう、これからも意識して業務にあたりたいと考えています。「陸上社員ばかりの部署だから海上社員は意見できない」「この業務はできない」と自分で勝手に線引きするのではなく、海技者が配属されることが稀な部署であったとしても、しっかりと自分の発言と行動に責任を持てる人になれたらいいなと思っています。だからこそ、日々アンテナを高く張り、何でも貪欲に学び、自分の決断に責任を持って行動することを、これからも大切にしていきたいと考えています。
~これから技術を身につけてゆく若者にメッセージ~
繰り返しになりますが、「乗船中に何にでも興味を持ち、アンテナを高く張ることの大切さ」を広報グループで業務をすることで改めて感じました。航海士だから機関士の業務範囲であるエンジン関係のことを知らなくても問題ない、とは思わず、自分が担当している業務以外にも視野を広げて、浅くてもいいから広く船の世界を把握しようと心がけることが大切です。例えば船の一番後ろに揚げている旗ですが、これは国旗ではなくて商船旗です。「国旗と商船旗の違いって何だろう?」と興味を持って学んだことが、メディア対応で活きたこともありました。当社の顔である広報担当者が、聞かれた時にすぐ答えられるかどうかは、当社の信頼を左右する部分であると感じています。
また、「やり切ること」「根拠を持って決断すること」を意識できる人であってほしいと思っています。陸上勤務では、自分自身で判断しなければならないことも多いです。そのためその準備として、海上では自分の業務、例えば担当機器のメンテナンス等で生じる小さな疑問を自分なりの考えを持って判断し、やり抜くことが大切だと思います。もちろん、他者の助けやアドバイスを求めることは大切ですが、最後まで責任を持ってやり抜くという前提があって初めてそれらは自分の役に立つと考えています。
※ 記載内容は2024年12月時点のものです