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    -第128回創業記念式典で社長があいさつ-
 
 

「不断の熱意をもって創意を十二分に発揮しよう」
-第128回創業記念式典で社長があいさつ-

2013年10月2日

当社の第128回創業記念式典が10月2日、東京都千代田区の本店15階ホールで開催され、社長の工藤泰三は次のようにあいさつしました。
 
「景気概況」
 
昨年末からアベノミクスに沸く日本経済ですが、円高修正と株価回復は多くの日本企業の収益や投資にプラスの影響をもたらし、当社グループも例外ではなく、少なからず恩恵を受けています。しかし、人口減少と急速な高齢化、需要不足の常態化、大幅な財政赤字など、日本経済の置かれた状況を直視すれば、安定した経済成長持続のためには、骨太の成長戦略の構築とその速やかな実践が不可欠であることは、誰の目にも明らかです。
幸い、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致というプラス要因が加わった今、現政権の今後の舵取りに期待が寄せられます。
 
米国経済は、米連邦準備制度理事会の量的緩和の継続に、シェールガス革命という追い風が加わり、着実に回復傾向にあります。ただ、今後、量的緩和が縮小されると、米国経済に直接与える影響に加え、新興国からのマネー引き揚げを誘発し、新興国経済の減速と、その反動が米国経済にも波及しかねないという微妙な問題を抱えており、不安要素がゼロではありません。
 
欧州は、英国やドイツの健闘に加え、南欧のいくつかの国では、景気の底打ち感がやっと出始めましたが、欧州全体としての消費活動が本格回復するには、まだまだ時間を要するでしょう。
 
中東地域は、以前からのイラン・イスラエル間の緊張に加え、エジプト国内の騒乱が続いており、北アフリカ一帯も含めた地域の経済活動がシュリンクする恐れがあります。加えて、シリアの政情不安が、今後の展開次第では中東全体を不安定化する恐れもあり、世界経済、当社事業に大きな影響を及ぼす可能性を注視する必要があります。
 
一方、目をアジアに転じると日米欧に比較し、依然、各国経済は堅調を維持しているといえるでしょう。世界の生産基地としての役割が略飽和状態となりつつある中国はかつてのような二桁成長はさすがに望める状況ではありませんが、依然、7-8%という高水準の成長を維持しています。インド、ASEAN諸国も5-6%と堅調です。
 
以上を総括すると、世界経済は依然、不安定要因を抱えてはいるものの、確実に回復傾向にあり、今後の持続的安定成長に向け、試行錯誤を続けている状況といえましょう。
 
「事業環境」
 
このような世界の経済情勢の中にあって、われわれの海運・物流の事業環境はどうなのか。 
貨物需要自体は地域によって差異はあるものの、リーマン・ショック前のレベルを超え、着実に増加しているにもかかわらず、大半の船種で依然として大きな需給ギャップが解消されずに、引き続き市況の低迷にあえいでいます。リーマン・ショックから丸5年を経過した現在でも、依然としてこの大きなギャップが存在するのには、二つの理由があります。一つは、リーマン・ショック直後の2009年に荷動き量は激減しましたが、翌2010年には、想像を超える急回復を示し、リーマン・ショック前の水準に一挙に戻ってしまったため、誰もが従前の二桁成長に復帰したと勘違いして、新造発注を再開、結局発注にブレーキがかかるのが、荷動き鈍化が明らかとなった2011年までずれ込んだ点。もう一つは、コンテナ船でより顕著な現象として、燃料価格の急騰に伴い、燃費効率の悪い船の経済性陳腐化が一挙に顕在化し、とにかく、最高の燃費効率を求めた超大型コンテナ船への代替が、コスト競争力維持上、死活問題化しつつあり、それに、造船メーカーの低船価受注が拍車を掛け、新造発注が依然進行している点です。
 
さて、問題はこのような状態が異常であり、時間の経過とともに、状況が改善に向かうか、という点ですが、自動車船や一部の特殊船型を除き、大半の船種は供給過剰がむしろ通常の状態だと認識すべきだと考えます。新造船は、発注から竣工まで、およそ、2年のタイムラグが有るため、荷動きが急に悪化すると、需給ギャップが急速に拡大しますし、実際に荷動きが減少するのではなく荷動きの伸び率が鈍化するだけでも、従前の荷動きの伸び率に合わせた新造発注となっているケースが多く、少なくとも2年程度は需給ギャップが拡大してしまいます。また、純粋な船主業の基本は、とにかく、低船価時に新造船を仕込むことであり、最近は、投機的なものを含め、この種の新造発注が増加傾向にあります。つまり、船は供給過剰になりやすい構造的問題を抱えていると考えるべきなのです。
 
「われわれの進むべき道」
 
アジアならびに新興国の経済発展に伴い、荷動きは今後も着実に増加するが、同時に、常に需給ギャップを抱えるという難しい事業環境の中で、われわれはいかに生き残り、成長を続けて行くのか。その答えは、やはり、「需給ギャップが存在しない、あるいは無縁の事業を拡大する」、「需給ギャップを解消、あるいは、無縁化できるように、事業モデルを体質改善する」、「われわれの特技ともいえる、擦り合わせ能力を生かして3M(ムダ・ムラ・ムリ)の解消を徹底する」、そして「不断の熱意をもって、創意を十二分に発揮する」ことではないでしょうか。
 
― More Than Shippingの領域拡大
 
まず、需給ギャップが存在しない、あるいは無縁の事業ですが、これは皆さんご存じの通り、着実に拡大しています。高度な安全基準と操船技術を求められ、従って、参入障壁が高く、かつ、長期契約が大半を占めるドリルシップ、シャトルタンカー、FPSO、FSOなどの海洋事業や、LNG船事業を積極的に拡大しているわけですが、単純な船ではないという点で、More Than Shippingの領域の拡大ともいえます。自動車船事業はほとんど長期契約が存在しませんが、車以外に運ぶ貨物が全く存在しないという特殊船型のため、荷動きが減少し、当分の間回復が見込めないと、老齢余剰船が解撤されてしまい、その結果、需給ギャップも存在しなくなるという特殊な事業環境にあります。ただ、円高の定着により、地産地消、すなわち、海外現地生産が拡大しており、今後、海上荷動きの大幅な拡大は望めません。この打開策として、われわれは完成車のターミナル、陸上輸送、PDIなど、陸上側での事業拡大を図っており、これもまた、More Than Shippingの領域です。一方、郵船ロジスティクス株式会社の物流事業はコンテナ船や、貨物航空機の需給ギャップには基本的に無縁というか、ギャップが拡大するとスペースの仕入れが、むしろ安くなるメリットもあり、これまで力を注いできたゆえんの一つです。
 
― カーゴロングの状態へ
 
次に、2番目の需給ギャップとの無縁化ですが、一言で言えば、適度のカーゴロングの状態に早く復帰することです。すなわち、われわれが持つ契約貨物、あるいは、営業力以上に船を持たないということですが、主として、ケープサイズ、パナマックスサイズのドライバルク部門の課題です。当社は従前から、カーゴロングの方針が徹底していました。それが、2003年から2008年までの未曽有の長期間にわたる船不足の時、裏目に出てしまいした。貨物輸送契約履行のため、不足分の船をマーケットから調達せねばならなかったわけですが、結局、短期用船での対応ができず、割高な5年前後の中期の用船を強いられ、その後荷動きが鈍化した結果、極端な船ロングの状態に陥ってしまいました。今、キャンセル料を払って船隊を縮小すれば、解約船がフリー船として、マーケットを攪乱(かくらん)する可能性もあります。数年後には、これら割高の用船は返船できますので、それまでは、逆にこれらの余剰船をフル活用し、合理的運賃水準の中長期の契約を積み上げることが肝要です。同時に、少しでも船ロングの状況を解消すべく、減速運航の深度化をさらに進める必要があります。現在、ケープサイズのマーケットが急回復し、余剰フリー船の収支が大幅に改善していますが、だからといって船ロングの状況を放置していいというものではありません。当社には、フリーのケープサイズバルカーを抱えマーケットで儲けるというビジネスモデルは存在しません。あくまでお客様との契約貨物の輸送に支障を来さず、かつムダのないスリムな船隊規模に早く復帰することを、心掛けてください。コンテナ船は、幸い一定の短期用船比率を維持し、船ロングの状況にはないと了解していますが、今後とも、自分の営業力以上に船を長期で抱えてはなりません。貨物の長期契約が存在しない、かつ、荷動きの季節変動が常に存在する事業である以上、まず長期で抱えるコア船隊を常に高消席率で運航することを最優先すべきであり、不足分は若干割高でも短期用船で対処する基本方針を崩してはなりません。一方で、コンテナのコア船隊も、とりわけ遠距離の欧州航路において、燃費効率の観点でコスト競争力が大きな問題となってきました。幸い、船ロングで身動きの取れない状況にはなく、選択肢は多数存在しますので、今後の対応をじっくり検討していきましょう。
 
― 3M解消の追求
 
さて、3番目は3M解消の徹底ですが、キーワードは関係者間の擦り合わせ能力だと思います。  
燃料代の高騰で、燃費効率の良い船への代替が急速に進むことは間違いありませんが、だからと言って、一挙に全てが代替されるわけではありません。従って、当面は減速運航の深度化の度合いが、各社の競争力を大きく左右すると言っても過言ではないでしょう。それにコンテナ船事業の場合は、空コンテナのムダな動きを、バルカーであれば、バラスト航海というムダを、いかに最少化するかなどが、これまたコスト競争力を大きく左右します。この領域はハードではなくソフトすなわち人間力が問われるわけで、われわれにとって絶好のチャンスといえます。燃節活動は現在コンテナ船で進められた「IBISプロジェクト」で得られた知見を他部門の燃節活動の深度化に活用する「IBIS TWO」へと進化していますが、これを支えるには、システムもさることながら、少しでも減速する余地を見つけ出す強い意識を本船・陸上の運航担当・寄港地の現場担当が共有し、三者間で情報を常に擦り合わせることが最も肝要です。
 
空コンテナのムダな動きの最少化は、EAGLEプロジェクトとして最も力を入れて対応中です。見掛け上、高運賃であっても、復路の貨物がない仕向地への往航貨物は、空コンテナをアジアへ回送する必要がありますが、その費用を加味しても採算に合う貨物なのか。 また、復航貨物であっても、その仕向地がコンテナの余剰地域であれば、わざわざ、コンテナの不足する他の港に転送する必要が生じ、歩留まりを大きく低下させるわけで、これまた、システムを十分に活用しつつ、関係者間で常に情報を擦り合わせることが不可欠です。
 
バラスト航海の最少化の一環として、昨日、日之出郵船株式会社とNYKグローバルバルク株式会社を統合し、新生NYKバルク・プロジェクト貨物輸送株式会社を立ち上げました。日之出郵船は日本・アジア出しの鋼材・プラント輸送が主要業務であるのに対し、NYKグローバルバルクは日本・アジア向けの非鉄鉱石・製鉄副原料・木材・穀物などの輸送が主要業務です。従って、両社の業容はそれぞれのバラスト・レグを補完し合う関係にあるわけです。
 
当然、今までも、お互いに協力してきましたが、別会社ということで、協調の深度化に難点がありました。例えば、新造船の船型を考えるとき、NYKグローバルバルクは、プラントや鋼材輸送も視野に入れたのか。逆に日之出郵船は、非鉄鉱石などの復航貨物を意識してきたのか。残念ながら、そういう点の配慮は無かったに等しく、お互いに擦り合わせを行っていれば、バラスト航海という大きなムダを、もっと排除できたはずです。
 
― +α(プラスアルファ)を支える精神
 
そして最後に創意・工夫の発揮です。省エネ・燃節が今や海運会社の存亡を左右すると言っても過言ではありません。しかし、それをただただ「大型化」だけで対応しようとするのは、あまりにナイーブ過ぎます。大型化は確かに大きな効果を期待できますが、「満船であれば」という大きな前提付きであることを忘れてはなりません。荷動きには当然季節変動もありますし、配船航路の柔軟性も考える必要があります。大型化を決して否定するわけではありませんが、それは誰でもできることであり、われわれは、常に+αで他社との差別化を図らねばなりません。日本船舶海洋工学会の「シップ・オブ・ザ・イヤー2012」に選定された空気潤滑システムを搭載した本船“Soyo(双洋)”は、一つの好例です。
 
「結び」
 
昨2012年度は、必達目標であった赤字からの脱却を達成し、本年度は経常黒字の定着化が最大課題です。第1四半期は114億円の経常利益を計上でき、また、上期で240億円を予想しており、黒字定着に手応えを感じています。事業環境が厳しい中、皆さんの頑張りに心より敬意を表したいと思います。しかしながら、この利益水準はステークホルダーの皆様の期待するレベルにはまだ不十分です。先ほど申し上げた点を皆で、「誠意・創意・熱意」をもって、一つ一つ確実に実践し、あるべき利益水準到達に向け、グループ一丸となって頑張ってまいりましょう。
 
本日のあいさつを終わる前に、コンプライアンス関連に、あらためて触れさせていただきます。昨年、当社は、自動車船事業における独占禁止法違反の嫌疑で日米当局により、それぞれ調査を受け、また、欧州当局からも質問状を受領しています。現在も調査は継続中であり、引き続き調査に全面的に協力しています。これまで繰り返し述べてきたように、当局から嫌疑を受け、社内へ立ち入り調査をされたという事実は、極めて重く受け止めなければなりません。二度と同じことがNYKグループ内で起きないように、独禁法遵法活動徹底委員会の設置や投資案件における競争法に係る事前審査制度の導入などを順次進めていますが、社員一人ひとりにおいても当事者意識を強く持って独禁法順守に努めてください。
 
最後に、皆さんとご家族のご健康、ご多幸を心より祈念して、私からのあいさつといたします。
 
 
以上

 

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