鉄鋼業界の脱炭素化と船員の労働環境向上に寄与
日本郵船株式会社(以下「日本郵船」)と同社グループの株式会社MTI(以下「MTI」)の2社は11月8日、ばら積み(ドライバルク)船による還元鉄(注1)輸送技術に関する特許を出願しました。この技術は複数の技術を統合した1つのシステムを指しており、安全・品質管理が難しい還元鉄の海上輸送を容易にし、より安全で高品質な輸送を可能にするものです。これにより鉄鋼業界の脱炭素化や船員の労働環境向上に寄与します。
技術の概要
1.船倉内環境データの収集
IoT(注2)技術を用いてリアルタイムで船倉内の環境データ(温度、湿度、酸素・窒素濃度など)を取得・遠隔監視することで貨物のダメージリスクを軽減します。乗組員が貨物や船倉内の状態確認のために船倉内を出入りする頻度が少なくなり、転落・窒息事故をはじめとする人災や、ヒューマンエラーによる計測ミスの予防も期待されます。
*当技術は日本郵船、MTI、NYKバルク・プロジェクト株式会社の3社で個別に特許取得済み(第7402386号)
参照:IoTセンサーを用いた新・艙内環境監視システムの実証実験に成功
2.船倉内環境の推定
船舶の諸元や運航データ、貨物の初期情報などを考慮し、航海中の船倉内環境を機械学習等で推定します。
・船舶運航データ:想定航路、航海距離・時間、遭遇する可能性のある気象・海象、外気温、海水温度など
・貨物の初期情報:船に積み込む前の貨物の量、貨物温度、含水率など
・船の諸元:船型、船齢、メンテナンス履歴など
3.船上の安全・品質管理支援
船上で以下の情報をディスプレイ上に可視化し、船倉内の安全度判断を支援します。
・船倉内環境データ:温度、湿度、酸素・水素濃度など
・船倉内の安全度:貨物(適切な輸送環境に保たれているか)と乗組員(倉内に出入り可能かの判断支援)に対する安全度
・具体的な対策案の提示(換気、不活性ガス注入タイミング・量、航路変更など)
4.陸上からの安全・品質管理支援
衛星通信を利用して、船倉内のセンサーから収集した船倉内環境データをオフィスからもリアルタイムで確認できます。これにより乗組員の練度のみに依存することなく、船陸一丸となった安全運航と品質管理が可能です。
開発の背景
還元鉄は製造プロセスにおいてコークスを必要としないため、鉄鋼業界のカーボンニュートラル化に向けて注目されています。そのため生産地(天然ガスなどのエネルギー資源が豊富に存在する地域)から需要地へ、さまざまな形態の還元鉄の海上輸送が活発化することが予想されます。船上では輸送中における過熱、火災に加え爆発のリスクに対して適切な貨物管理が求められる一方で、船員の労働環境向上に効果的な貨物管理手法も求められており、これらのソリューションとして本技術は開発されました。
3社は日本郵船のドライバルク事業本部が掲げる運営方針「ドライバルク4戦略」に沿った取り組みを推進しています。今回の特許出願はそのうちの「新規事業の開拓として海運業を超えたサプライチェーンへの参画」の、主に海運が担う「はこぶ」の枠を超えたさまざまなソリューション開発や業務提携・出資、輸送技術開発の一環です。
日本郵船ドライバルク事業本部の運営方針「ドライバルク4戦略」
戦略4「新規事業の開拓として海運業を超えたサプライチェーンへの参画」の概略図
戦略4の他取り組みの紹介
分類 | 過去の取り組み |
ソリューション開発 | ・木材チップ専用船で「掻き出しロボット」のトライアル実施
・安全で効率的な港へ 船体動揺低減の係留システムを試験運用 |
業務提携・出資 | ・日本郵船とオオノ開發が船舶リサイクルの事業化に向け検討開始 |
輸送技術開発 | ・IoTセンサーを用いた新・艙内環境監視システムの実証実験に成功
・バイオマス燃料バイオマス輸送船建造に向けたMOUを締結 |
(注1)還元鉄
製鉄プロセスでコークス(炭素)を必要としない鉄鋼。鉄鉱石から酸素を除去する過程で使用されるコークスの代わりに水素を用いるため、二酸化炭素を排出しない。自然環境に優しいグリーンスチールと呼ばれ注目されている。
(注2)IoT
IoTはInternet of Thingsの略。「モノのインターネット」と訳され、さまざまなモノがインターネットに繋がる仕組み。この技術を活用し、センサーをネットワークに接続して情報を収集・管理する。
以上
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