特別対談 ~IoT時代の技術チャレンジ~(抜粋版)

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当社グループは、お客さまや社会の求める安全で経済的かつ環境に配慮した海上輸送サービスを実現するために、さまざまな活動をしています。その一つとして船舶に関わるIoT、ビッグデータをはじめとするICT技術の活用に注目しています。今回は、ICTの研究開発分野をリードする国立情報学研究所所長で東京大学教授の喜連川優氏をお招きし、当社グループの技術開発を担う(株)MTI代表取締役社長の田中康夫と、当社グループの最新の取り組みや今後の展望などについてお話いただきました。

特別対談

IoTを駆使して業務改善

Q 近年、IoT、ビッグデータの活用が注目されています。最初に、IoTが社会でどのように使われているのか教えてください。

喜連川

東大生産技術研究所で実施した、IoTを活用した看護師の看護行動の分析事例をご紹介します。
看護師のポケットや手首、ウエストなどに3軸加速度センサとRFIDタグを装着し、看護行動を血圧測定や採血、点滴、患者の介助など41種類に分類したうえで、センサを装着した看護師にそれらの行動を繰り返してもらい、データを収集・分析して自動で看護行動を識別するための学習モデルを構築しました。ある病院の看護師75名を対象に、延べ1,655日の看護行動を調査した結果、圧倒的に多くの時間を費やしているのが「看護記録のデータ入力」だと判明しました。別の病院の実験でも同じ結果で、なんと皮肉にもITが課題の根源に関わっていたわけです。ビッグデータで重要なペインを浮き彫りにすることができ、今後IoTで解決することが期待されます。

田中

IoTやビッグデータを活用していろいろな行動分析を進めて仕事を「見える化」することで、課題の発見につながりますね。

喜連川

「見える化」という従来の感覚をはるかに超え、透き通るように見える「超可視化」ともいえる新しい世界がビッグデータによってもたらされます。

船陸間で運航データを共有して省エネ運航を追求

Q 日本郵船グループにおけるビッグデータ活用の取り組みをご説明ください。

田中

当社グループでは、近年、安全で経済的な船舶の運航を推進するため、ビッグデータ活用に取り組んでいます。その基盤となるシステムの一つが、2008年から運用を開始した「SIMS(Ship Information Management System)」です。SIMSの稼働によって正確な状況把握に基づく精度の高い運航管理が可能になりました。
燃料消費量のデータに加え、船速・風向・風速・針路・舵角といった運航状態に関するデータを収集・記録し、通信衛星を介して船陸間で共有する情報基盤がSIMSです。SIMSを導入した船舶が運航を繰り返すことで、さまざまな条件下でのデータを蓄積することが可能になりました。これらを分析し、燃料消費量が膨らむ要因を「天候影響」「スピード配分」「コース選定」など7種類に分類しました。

喜連川

条件を揃えて比較分析すれば、どのような運航が効率的かは一目瞭然ですよね。

田中

はい。状況を「見える化」したことで「この状況ならこういう運航が最適」というベストプラクティスが分かってきました。例えば、天候の変化に合わせた速度調整ができているか、港を早めに出航して減速航行できているかなど、船陸が一体となって運航改善を追求しています。

喜連川

ビッグデータによりビジネスのプロセスそのものがどんどん変わっていき、ICTが大きく世界を変えるということの非常に生き生きとした感覚が伝わってくるよい事例ですね。

運航データを設計に活かし環境と安全性能のより優れた船舶を目指す

田中

SIMSの活用によって、燃費効率の向上が図られ、同時にCO2排出量の削減効果も得られています。加えて、船舶の建造や改造などの設計段階においても実際の航路で蓄積した運航データを活用し、より燃料消費量を抑え環境負荷低減を可能にする船舶の実現を目指しています。

喜連川

国際競争が激しさを増すなかで、これから日本が強みを発揮できる領域の一つが環境分野だと思います。

田中

当社グループは、将来のゼロエミッション社会を見据えたコンセプトシップ「NYK SUPER ECO SHIP2030」を発表しています。こうした環境負荷低減の技術開発においても、データを活用することは非常に重要です。
また、現在はデータの活用を安全運航の追求にもつなげる取り組みを始めています。エンジンをはじめとする主要機関のコンディションを監視したり、解析の手法を工夫したりすることで、故障の予知・予防に活かそうとしています。

オープンプラットフォームを推進して業界のイノベーションをリードする

田中

当社グループでは、造船会社や機器メーカーなど共同研究パートナーにデータを提供し、船舶や機器の性能向上を図っています。さらに、船舶のIoTデータのオープンプラットフォーム化に向けて、ISO標準化や日本と欧州の船級協会とのデータセンター構築に協力しています※1

喜連川

日本郵船グループはデータ活用を通じて、自社の業務だけでなく海運業界全体のビジネスプロセスを改善しようとされています。ここまで踏み込んでいる企業は、国内はもちろん世界でも珍しく、先進的な取り組みだと感心しました。

田中

その点については、当社グループがメーカーではなくユーザーの立場にあることが大きいと思います。船舶を使い続けることで得たデータや知見を有効に活かすためには、メーカーや大学・研究所との協業が欠かせません。

喜連川

ユーザー側のデータに基づくエンジニアリングが、これからの"モノづくり"にとって重要なキーワードになるのではないでしょうか。メーカーの手を離れた製品が、その後どのような使われ方をしているのかを一番よく知っているのはユーザーです。それだけに今後、ユーザーとメーカーがデータを共有することにより社会や環境に優しいイノベーションをつくる時代になることは必至と確信します。

AI(人工知能)を含む先進ICT技術を徹底的に活用

Q 最近はAIにも注目が集まっていますが、今後の可能性についてご意見をお聞かせください。

喜連川

ビッグデータ、IoT、AIという3つのテクニカルタームは、実はほとんど同じ領域を意味しています。なかでも、ベースとなるのがビッグデータです。データを効率的に収集するための手段がIoTであり、データを解析するのがAIです。今日ディープラーニングによりAIの精度が飛躍的に向上しましたが、その変革感を与えている最大の要因は大量データが利用可能になったからです。どのようなデータを揃えられるかが重要なのです。

田中

AIが判断できるようデータを揃えることが重要なのですね。自動運転に関していえば、船舶の分野でも「自律化船」と呼ばれる自動運転の研究プロジェクトが始まっています。
当社グループも国土交通省が推進する海事産業の生産性革命(i-Shipping)※2というプロジェクトに参加して自律化の研究を進めていますが、いきなりAIによる無人運転を実現しようとは考えていません。まずは、人による安全運航をサポートするための道具として、AIを含む広い意味でのICT技術を活用しようと考えています。

最後に、喜連川先生からのメッセージをお願いします。

喜連川

日本郵船グループが社会環境の変化や技術革新の動向を捉えながら、ビッグデータを基軸としたICTを徹底的に活用しようと取り組んでおられるのがよく分かりました。
とりわけオープンプラットフォームの仕組みを積極的に推進し、業界・社会全体でイノベーションを進めていこうという姿勢は、海運業界以外においても大いに参考になるはずです。



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